文・スティーブ=ハリス●日本フットサル連盟常任理事
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奇跡(ミラグロ)を求めてバレンシアへ

地中海の海岸に沿ってカステヨンから下って約60キロを走ればバレンシアに着く。パエリャという名物の米料理で知られるこの都市はマドリードとバルセロナに次いでスペインの3番目に大きい都会である。サッカー(イレブン)の欧州チャンピオンズ・リーグのファイナルでお馴染みのバレンシアCFという名クラブが本拠地とするここでは、バレンシア・ビフサがプラヤスと違ってローカル・ヒーローに程遠いイメージがある。

カステヨンとバレンシアの異なるフットサルにする取り組み方は、スペインのプロ・フットサルの現状そのものを表していると思う。つまり、競技人口でいえばフットサルはグラウンド・サッカーを抜いているスペインには、財政面において世界一のプロ・リーグもあるわけだが、スペインではフットサルはメジャーなプロ・スポーツかというとそうでもない。カステヨンやセゴビアの新聞はLNFSのニュースを大きく取り上げるし、ローカル局も試合を放映するが、たとえば一般のスポーツ紙のひとつである「AS」はLNFSの決勝シリーズを随分新聞の裏の方でしか載せなかった。サッカー関連の記事が数十ページあり、F1やテニスに関する見出しも目に付くところにあるが、LNFSがとりわけ一般的に注目されているわけではない。

それでも5000人弱の観衆が会場の Fuente de San Luisに詰め掛けて、帰ってきたビフサに熱い声援を送っていた。Fonteta という愛称で親しまれているこの会場で、我々がピッチから3列目の中央の席に座り、限りなく恵まれた位置から戦況を眺めることになった。夢のようだった。

試合が始まる前からプラヤスのアップにすっかり見とれてしまった。柔軟体操からパス、リフティング、シュートやコーナースロー&ボレーまで、狭いハーフ・ピッチで何一つ無駄な動き無しで選手全員で約35分で行ったのは、何ともスリリングだった。2年前に来日した際に見たブラジルのアトレチコ・ミネイロのそれも凄かったが、スペイン・フットサルのパワーとテンションの高さが今日のプラヤスのアップに見事に凝縮されていた。

Fontetaの雰囲気は熱かったが、8000人キャパの会場の入り具合が半分強。ゲーム・スポンサーの「家具店LARA」の看板がLNFSの現状を物語るポイント。背後の壁にあるAjuntament de Valencia(バレンシア市役所)とVijusa(ビフサ産業)はメイン・スポンサーに当たる。

試合が始まったら、アップの時のテンションのワケが分かった。今日のプラヤスは、僕が見た二戦目と三戦目のチームとかなり違っていた。パス・ワークが丁寧で慎重、動きもコンパクトで、仕掛けにも抑えが利いていて無理がない。しかも、無闇に上がり、背後のスペースを空けるという致命的なミスもきちっと修正されていた。「きょう選手はハートじゃなくて頭でプレーをしていた」とペレス監督が試合の後で語った一言がものすごく納得できる試合内容になっていた。

このハビ・ロドリゲスの姿が示すように、今日のプラヤスは冷静に「見て動く」フットサルをしていた。

こういう状況でいつも光るのはキャプテンのロレンテ。彼がパウリニョと組んだポスト・プレーで取った先制点は教科書どおりで予測できたものだったが、完璧なポスト・プレーは来ると分かってもやはり止められないものだろう。

いくら一対一の勝負で絶対的な自信を持つプラヤスの選手でも、バレンシアとのゲームは今日の試合で7試合目だったので個人の仕掛けがかなり通用しなくなっていた。手の内はバレンシアの選手に知られすぎただろう。逆にフットサルらしいコンビネーション・プレーとピッチを大きく使うポジショニングでフィジカル的に落ちていたバレンシアを料理する方が的確だった。プラヤスのこの判断がこの試合の行方を決めた。

それでも一点のビハインドを追うバレンシアは勇敢だった。ラファは相変わらず好調で、凸凹コンビのホセマとテテも取りつかれたようにファイティング・スピリット剥き出しの気合でプラヤスの猛攻を凌いだ。ほかの味方も凌いだ。地元の声援に勇気付けられながらバレンシアの選手が頻繁に交代することで体力をキープできて、延々30分もプラヤスを一点のリードに抑えることができた。

しかし、倒れるフェデがなかなか立ち上がれない。穴埋めで起用された若いカルロスが必死でついていくが勝負を左右する選手ではない。中心のホセマが死にそうな顔でベンチでフレッシュしようとするがこの状況では回復しきれない。

麻酔を打っての出場を果たしたフェデは接触されては倒れた。残念ながらこれがバレンシアのチームの状態を象徴していた。

バレンシアのバテに反比例するようにプラヤスのボルテージが上がる一方。小気味良いコンビネーションが鋭さを増し、激しいプレスもバレンシアを飲み込む。負けん気の気力で首の皮一枚で生き残るバレンシアをプラヤスが決定的に捕らえるのは時間の問題だった。

そして、トドメがきた。バレンシアのゴール前の右でロレンテが目の前にいるロドリゲズを囮に反対サイドにいるサンチェスに横パスを送り、サンチェスがワンタッチで強烈なシュートをバレンシアのゴールに叩き込んだ。バレンシアのタイムアウトの後にもプラヤスのクピムが一人で持ち込んでずば抜けたキック力でおまけの三点目を入れて、万事休す。

3−0の勝利でプラヤスの二年連続のリーグ優勝を告げるホイッスルが鳴ると、両チームのサポーターによる総立ちは数分続いた。プラヤスの力は確かに偉大ではあったが、多くの人は最後の最後まで諦めないバレンシアの健闘に拍手を送っていた。そのひたむきな姿には、模範的なプロ意識とプロ意識を超える純粋なチャンレンジ精神がファンの心を打っただろう。マスコミの論調も極めて好意的で、「敗者のない決勝」「堂々と胸を張っての準優勝」といったバレンシア礼賛が翌日の新聞を彩ったように、V2のプラヤスの株を奪うバレンシアの「後一歩の奇跡」の方が今シーズンの最大の思い出になったに違いない。

スペイン代表監督のロサノに選ばれずグアテマラでスペインの世界一を体験できなかったロレンテがプラヤスのキャプテンとしてリーグ優勝のトロフィーを高々と持ち上げてサポーターに誇らしく見せる。

バレンシアの頑張りやのテテの表情に落胆が一切なく、むしろ充足感がにじみ出ている。得意げに見せているのは価値ある準優勝のメダルだ。
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