ワールドカップブラジル2008・「アルゼンチン 対 ロシア キタケンレポート!

実力差を埋めた老獪さ

 1勝1敗で勝点3のロシアと、1分1敗で勝点1のアルゼンチンによる2次リーグの最終戦は興味深いゲーム内容となった。ロシアは引き分け以上、アルゼンチンは勝利することが準決勝進出の条件だ。
【ワールドカップブラジル2008・キタケン現地マッチレポート】
 文・北健一郎氏(ストライカーDX)

2008年10月15日・リオデジャネイロ(ブラジル)・2次予選

アルゼンチン代表
1-1
1-1

ロシア代表
2-2



  実力差を埋めた老獪さ


 1勝1敗で勝点3のロシアと、1分1敗で勝点1のアルゼンチンによる2次リーグの最終戦は興味深いゲーム内容となった。ロシアは引き分け以上、アルゼンチンは勝利することが準決勝進出の条件だ。

 試合前に配られたメンバーリストを見ると、ロシアはキャプテンのマエフスキー、エースピヴォのシリロという2人がベンチに入っていない。マエフスキーは出場停止でシリロはケガだという。ロシアは主力2人を欠いた中で大事な一戦を戦うことになった。

 アルゼンチンは主力選手は4年前からほとんど変わっていない。ゲームメーカー&キャプテンのサンチェス、一瞬のスピードがあるアタッカーヒメネス、ゴンサレス、パワフルな突破とシュートが魅力のプラナス、レフティーのガルシアスなどは、壮行試合などで日本のファンにもおなじみだろう。

 両チームのスタメンは、アルゼンチンがGKギサンデ、ギシュトッツィ、ガルシアス、ルクス、ゴンサレス。ロシアはGKズエフ、コブザール、プーラ、アジゾフ、デゥシュケビッチ。

 先制点はアルゼンチンだった。4分、左のアマスが右のプラナスにパスを出して、一瞬中へいくフリをして角度を変えてファーへ走り込む。そこへプラナスからどんぴしゃのボールが入って、アマスがスライディングで合わせた。"電光石火"と表現したくなるような、スピード感溢れるゴールだった。

 先制したアルゼンチンはハーフまで下がってコンパクトにディフェンス。前線からプレスをかけることはないので、ロシアボールのときはまるでパワープレーかと思うほど、ロシアが自由にボールを回し続ける。

 ただし、決定的なチャンスの数はアルゼンチンのほうが多かったと思う。10分、ロシア陣内での右奥でのキックインにプレスをかけていって、ウィルヘルムがカットしてアジゾフがゴール正面からシュート。これはロシアGKがセービング。

 インプレー中は前からプレスをかけないアルゼンチンだが、このように相手陣内での相手のキックインのときには見違えるように厳しくプレスをかける。ロシア選手が近くの選手に出したところを数人でワッと囲い込んでボールを奪い、ゴール近くでのシュートチャンスにしてしまう。

 アルゼンチンはよくいえば勝負に徹底的にこだわった、悪くいえばつまらない戦い方をしてきた。

 彼らが攻撃モードになるのはカウンター、セットプレー、それから前述のようなチャンスになりそうなシーンだけ。例えば、ボールをつないでいける場面でも、ロシアディフェンスが整っていると判断すれば、驚くほど淡白な攻めで攻撃権を放棄してしまう。ララニャガ監督は13分にタイムアウトを申請したが、これはCKの前。セットプレーのチャンスを確実にモノにするためのパターン確認だったのだろう。

 それでもロシアは16分、アルゼンチンが上がった一瞬のスキをついてカウンターを仕掛け、デゥシュケビッチが決めて1-1として前半を折り返す。前半のボールポゼッションはロシア63%、アルゼンチン37%だった。

 後半、アルゼンチンは前半と戦い方をガラッと変えてきた。きっかけはサンチェスとヒメネスだった。前半出番のなかった2人は、サンチェスがボールキープとパス、ヒメネスがドリブルからのシュートという得意のプレーでアルゼンチンの攻撃に変化をつける。

 アルゼンチンの戦い方は変幻自在だ。前半のようにカウンターに徹することもできれば、自分たちから仕掛けていくこともできる。ロシアがハーフタイムに「カウンターしか狙ってこない」と話したであろうところで、自分たちはポゼッションスタイルに切り替える。1試合40分の中でのゲームの抑揚のつけ方がうまい。

 ロシアは、日本戦でハットトリックをしたハマディエフが切れ味鋭いドリブルでアルゼンチンゴールに襲いかかる。10分、左サイドでスピードに乗ってGKを足裏でナメて左にかわしてシュート。しかしこれはサイドネット。

 今度はアルゼンチン。11分にCKからコラッツァが左足で打ったボールのこぼれ球を、ゴンサレスが打つがゴール上。

 大事な2点目が決まったのは11分、ロシアのシャヤフメトフが右サイドでトイメンの敵をシャペウでかわして、左足アウトで中へパス。これをプルドニコフが右インで押し込んでロシアが勝ち越す。

 アルゼンチンはGKをエリアスに代えてパワープレー。2007年の日本代表との親善試合で、日本が1-0でリードしていた第2戦の後半に出てきたのが、このエリアスだった。ラストワンプレーで彼に強烈なシュートを叩き込まれたが、決まる前に終了していたという判定で命拾いしたのは記憶に新しい。

 彼のようにFP並みにボールをさばくことができて、パンチのあるシュートを持っているGKがいれば、GKのままでパワープレーをすることができる。攻守の変わり目にパワープレーGKと本職GKがバタバタと交代しないでいいのも大きい。

 15分、アルゼンチンのパワープレーがロシアディフェンスを崩す。右サイドから左利きのウィルヘルムがファーポスト目掛けて対角線上にパス。相手と相手の間を通り抜けたパスをゴンサレスが右足でうまく合わせて、2-2の同点! ベスト4に生き残るためには勝つしかないアルゼンチンはその後もパワープレーを続行する。

 ロシアにとって、ここから試合終了までの5分間は非常に厳しい時間帯だっただろう。それでも、ラスト13秒でのアルゼンチンの決定的チャンスも防ぎきり、同点のままゲームを終えて、準決勝進出のカードを手に入れた。

 3年前のユーロで準優勝、クラブでもUEFAチャンピオンシップで2年連続で優勝クラブを輩出するなど、この4年間で最も力をつけたといわれるロシア。一方、4年間での積み上げがあまりなかったアルゼンチン。まともに戦えばおそらくロシアが3点差以上で勝つぐらいの実力差はあったと思う。

 それでも、、ロシアをギリギリまで追い詰めた彼らの戦いぶりにはうならされた。

(了)

【本エントリの著者】
北健一郎
URL: http://sportswriter.at.webry.info/
1982年7月6日生まれ、北海道旭川市出身。小学生の頃から雪でグラウンドが使えなくなる冬は室内サッカーをしていたが、サッカーもフットサルも大してうまくならず、ライターの道へ。
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