<バルドラール浦安 vs いわてステミーゴ花巻>
(文・写真:北健一郎)
バルドラール浦安 | 4-1 | いわてステミーゴ花巻 | ||
5-1 | ||||
9-2 |
首位堅持しつづける浦安
連敗脱出なるか花巻神戸
"ひたむきさ"を思い出せ!
Fリーグの8チームが発表されたときに、メディアを中心に懸念されていたことがあった。それが実績十分のチームと、全国的な実績のほとんどないチームでは、試合にならないのではないかということだ。
その不安が現実になってしまった。浦安がホームに花巻を迎えての第10節。浦安のゴールラッシュに沸き上がってきた感情は「興奮」ではなく「退屈」だった。
花巻は第7節で、プロ軍団・名古屋を破るという、ジャイアントキリングを演じた。僕自身はこのゲームを取材していないので、どんな内容だったかはわからないのだが、名古屋の猛攻に耐えて、数少ない決定機を生かしたであろうことは、容易に想像がつく。
しかし、この日の花巻のプレーを見る限り、「このチームがどうやって名古屋に勝ったのか」は、最後までわからずじまいだった。試合後、マルコ・ブルーノ監督は「大量失点で負けた後に試合を振り返るのは辛い」といって、ため息をついた。内山慶太郎は「いつかこういう試合になる日が来ると思っていた」と肩を落とした。
立ち上がり、花巻はまずまずのスタートを見せた。ロングボールとカウンターというシンプルな形から、浦安ゴールに何度か迫った。しかし、「今思えば最初はピヴォに当てるタイミングを探っていたのかも」と内山がいうように、浦安は花巻の出方をうかがっていた。5分過ぎから浦安が本領を発揮し始める。
大量得点の口火を切ったのは、稲葉洸太郎だった。11分、藤井健太とのワンツーで右サイドを抜け出し、ゴール前へ飛び込んだ市原誉昭へパス。市原がつぶれたところのこぼれ球を、稲葉がアウトで押し込んだ。
このゴールは、4人全員がほとんど一列に並んだ状態=クワトロ-ゼロと呼ばれる形から始まったもの。自分たちが並んでいるラインまで押し上げてきた花巻ディフェンスの裏を取った、鮮やかなプレーだった。
14分には清水誠のボレーシュートの打ち損ないが、中島孝への絶妙のパスになって2点目。17分にはドリブルから右かわしてクロスに打った、高橋健介のシュートがゴールネットを揺らす。だが、その直後に一瞬気が緩んだか、花巻がCKから1点を返す。「あの形は警戒していたので、やられてしまったのは残念」(稲葉)。
このまま3-1で折り返すことができれば、後半の花巻にチャンスはあったかもしれない。だが、前半終了27秒前、内山が「いちばん痛かった」と振り返る4点目を、稲葉に決められてしまう。中央でボールを持った稲葉が、敵の間に顔を出した藤井に当てて、落としを冷静に蹴り込んだ。
「ウチのスタイルで取れる限界が34点だと思う」と内山がいうように、3点差を取り返すだけの得点力も、そのための方法論も今の花巻にはない。ハーフタイムのロッカールームの雰囲気はまるで試合終了後のようだったという。何よりも、前後半の間の10分間で同点、逆転に導くための指示を出すはずのマルコ監督が「次の試合のことを考えていた」のである。
後半、マルコ監督は3枚のイエローカードをもらっている主力選手の岩見祐介を後半ほとんど使わなかった。7-1となった残り6分からのパワープレーにしても、「これ以上点を取られないようにボールキープをする」ためのものだったと説明した。
3点のリードを持っていながらも、ホームで浦安は攻めの手を緩めることはなかった。ゴールの"見本市"ともいえそうな、多種多彩なパターンから、花巻ゴールを5度も破ったのだった。
市原の"ピヴォ当て"ゴールに始まり、パスカットから中島が1対1を決めて6点目。圧巻は7点目。浮き球を藤井がオーバーヘッドでゴール前の稲田祐介へパス。稲田のヘディングはバーに当たったものの、跳ね返りをしっかり決めた。8点目はCKからニアで高橋がヒールで流して、走り込んだ清水がプッシュ。9点目はパワープレーを前から追い込み、岩本がゴール。チーム生え抜きの「プリンス」のFリーグ初得点というおまけもついた。
9点というのは、これまでの8点を更新する1試合のFリーグ最高得点。ゴールがたくさん決まることは、フットサルの魅力の一つでもあるし、お客さんも盛り上がる。だが、浦安の稲葉が「お客さんは逆につまらなかったんじゃないかな」というように、どちらかが一方的にゴールを重ねるゲームというのは魅力に欠けるのも事実だ。
花巻のマルコ監督は記者会見の席上で、「東北という地の不利」と「選手の質」の問題を訴えた。フロントに対しては、3次登録での補強の必要性を訴えているという。とはいえ、ここまでの花巻のパフォーマンスに関しては、マルコ監督も「自分が期待した以上にやれている」というように、それほど悲観的になるほどのものでもない。
だが、この試合の花巻には"ひたむきさ"が決定的に欠けていた。精神論といわれるかもしれないが、花巻のように1試合の多くを守備に費やすチームにとっては、集中力が勝敗を大きく左右する。名古屋戦の勝利はその最たるものといえるだろう。技術面や戦術面で劣るチームが勝つには、敵を上回る"ひたむきさ"があるのは大前提。今回の敗戦でそれを思い出せたなら、9失点という授業料は決して高くはないはずだ。