<バルドラール浦安 vs ASVペスカドーラ町田>
(文・写真:北健一郎)
バルドラール浦安 | 3-3 | ASVペスカドーラ町田 | ||
2-1 | ||||
5-4 |
首位を堅持したい浦安
波に乗れるか町田
名勝負数え歌 in Fリーグ
試合後に会見場で顔を見合わせた記者仲間は、みんな「にんまり」と幸せそうな顔をしていた。浦安と町田......というよりも、プレデターとカスカヴェウによる「名勝負数え歌 in Fリーグ」は先日の浦安-名古屋とはまた違った意味で、フットサルの醍醐味を教えてくれるゲームとなった。
浦安の選手入場の際には、最後に入ってきた稲田祐介に対して、町田サポーターからブーイングが起こった。昨季までカスカヴェウで金山友紀と"ゴールデンコンビ"を形成していた稲田は、「一身上の都合」で退団後、愛知県のサントスFCを経て浦安に電撃移籍したという経緯がある。昔のサポーターからブーイングされることについて稲田は、「サッカーはもちろん、フットサルでも海外では当たり前のこと。それだけ認めてくれているということだから、ある意味で嬉しかったです」と笑顔を見せた。
町田のスタメンはいつも通り、横江怜、狩野新、金山友紀、ホンダマルコス(ジャッピーニャ)、GKには前節に引き続き松原君守が入る。対する浦安は不動の守護神、川原永光、平塚雅史、藤井健太、岩本昌樹、中島孝。スタメンのパターンは6試合で6つ目。シト・リベラ監督の"猫の目采配"は相変わらずだ。小宮山友祐と高橋健介はケガでメンバーに入っていない。
立ち上がりこそ町田がカウンターから何本かチャンスを作ったものの、決められずにいると、5分、FKから藤井健太が右足で低く抑えの効いたシュートを叩き込む。「このピッチでは何か持っていると思う」と話す男が、大一番でも貴重な先制点を決めた。藤井の良さはシュートを打つときの迷いがないところ。シュート技術はもちろん高いのだが、敵よりも一つ早いタイミングで打つので、GKの対応が追いつかないのだ。
この後の時間帯で浦安のハイプレスがバシバシと決まり始める。名古屋戦でも一歩も引かずにやりあったことが、選手たちの自信にもなっているのだろう。ボールを持った町田選手に対して、前方の選手がサイドへのドリブルorサイドにいる選手へのパスを誘導して、ポイントにボールが来たら2人で囲い込むのが、浦安の狙い。「高い位置でボールを奪えば、素早くシュートに持っていける」ことをシト・リベラ監督は「前からいく」ことのメリットとして挙げたが、その形から8分には稲葉洸太郎がGKとの1対1を制して2点目、10分には中島が藤井との大きなワンツーでゴールを陥れて3点差をつけた。
残り9分12秒、ここで町田はタイムアウト。このタイムアウトは前半の"境目"となった。3-0という点差では、負けているほうは開き直って思い切ってプレーすることができるようになり、勝っているほうはどうしても緩みがでる。これが4点差、5点差までつくと厳しいが、3点差というのは残り時間を考えれば十分に射程圏内だ。あと少し後だったら手遅れになっていたかもしれないし、早すぎても効果は薄かっただろう。絶妙なタイミングだったと思う。
12分、町田の横江が左サイドから打ったシュートが、浦安選手に当たって決まると、一気に流れは町田のものに。16分、甲斐修侍が左コーナー付近で敵を背負った相根澄にボールを出して、中へ抜けていく。相根の落としを受けた甲斐は全くのフリー。左足を豪快に振り抜く、ゴールネットが揺れる! "カリスマ"のゴールでますます勢いに乗る町田は、その1分後にも甲斐がこぼれ球をダイレクトで決めて3-3! そして、前半終了。うん、濃すぎるぞ!
後半、町田は甲斐、金山、相根という前半終了時のメンバーをスタメンにしてきた。甲斐、相根は5分前後、金山は10分以上出ずっぱりだっただけに代えてくると思ったが、そのまま出してきた。これはバイアーノ監督がいい流れを後半のアタマに引き継がせたかったからだろう。彼らはその役目を果たし、23分のプレーで交代した。
一方の浦安は、前半一度もなかった中島、稲田というピヴォ2人の同時起用でスタート。前半の流れを「継続」したかった町田・バイアーノ監督に対して、「リセット」したかった浦安のシト・リベラ監督。こういうところからも監督同士の駆け引きが感じられて面白い。
後半は前半以上にお互いヒートアップ。ゴール前の競り合いで川原が足を蹴られてしばらく立ち上がれなくなるシーンも。そんな中で、気づけば町田のほうは、残り11分25秒を残して、早くも5つ目のファウルとなり、第2PKにリーチがかかってしまった。5ファウル後は「ノーファウルで」という意識が働くので、ボールサイドには今までのように厳しくはいけなくなる。この試合で町田の同点の原動力となったのは前からのアグレッシブなデイフェンス。腰が引けてしまっては良さが半減してしまう。
29分、町田は狩野がゴール前でキレのあるドリブルで2人かわして、シュートを流し込み、ついに3点差をひっくり返す。だが、残り時間はまだ10分以上。必然的に浦安の押し込む時間帯が増える。5ファウルになっていちばん生きてくるのがドリブラー。特に稲葉は"うなぎ"と称されるドリブルで、1対1では積極的に仕掛けていき、そこからのゴールはもちろん、ファウルも狙いにいく。シト・リベラ監督からの指示もあっただろうが、稲葉はピッチの状況を理解して、自分の良さを出せる頭の良い選手だ。
11分から6分間、ノーファウルで持ち応えた町田だったが、34分、稲田を滝田が倒してしまい、ついに6つ目のファウル。この第2PKを稲葉に決められて4-4の同点に。直後、今度はオフェンスファウルをとられて、2本目の第2PKを与えるも、ここは石渡良太がストップして、追加点は許さない。
4-4となった時点で、浦安は岩本がGKユニホームに着替えてパワープレーの準備。残り4分を切ったところでパワープレーを開始する。「リスクを負って攻めに行くのが我々のフットサル」とシト・リベラ監督。岩本も「ホームでもアウエーでも同点のときにはパワープレーで勝ちに行くのが監督の考え」というように、浦安の選手たちは「勝ちに行く」で意思統一されていた。
今回のパワープレー攻撃時の基本陣形は、前方が右中島、左稲田、後方が右稲葉、左藤井、真ん中にGKの岩本。名古屋戦からは高橋の代わりに稲葉が入っている。パワープレーの開始1発目で岩本→藤井→稲田→中島とつながるが、中島のシュートはサイドネット。
そして37分、浦安の新名物となった感のあるパワープレーから決勝点が生まれる。右サイドで藤井が前方の中島へパス。中島はシュート体勢から切り返し気味に中へ。これをゴール前で待ち構えていた稲田がワントラップから振りの速いシュート、ゴール! 「正直、調子は悪かった。シュートも上に行っていたし」というように、40分間のパフォーマンスでいえば稲田の出来は10点満点で「5.56」といったところ。だが、ストライカーにとっては、点をとることが何よりの仕事である。このゴールで稲田は、"町田の元エース"から、正真正銘、"浦安のエース"になったといえるのではないだろうか。
当然、逆転を許した町田もパワープレー。浦安は市原、清水、平塚、そしてFPユニホームに着替えなおした岩本と守備の計算のできる選手で守りを固める。町田はパワープレーから決定機を4度作り出したものの、あと少しのところで川原が立ちはだかり、ゴールをこじ開けられず。浦安が5-4で町田を下し、無敗と首位を保った。
試合後、藤井が「勝って良かった以外はない」と語ったように、浦安にとっては反省点が先に来るゲームだったことは確かだ。本当に強いチームとは、3点差の時点でゲームをクローズすることができるチーム。それができずに反撃を許してしまうあたりに、無敗の裏にある危うい戦いぶりが感じ取れる。とはいえ、皮肉にもそれが極上のエンターテイメントを提供することにつながっているのだが......。
町田のほうは悲観的な雰囲気はそれほど感じられない。バイアーノ監督が「結果的に負けたのは悔しいが、やってきたことは間違っていない。次につながっていくと思う」と語ったのは負け惜しみではないだろう。甲斐、相根というベテランの調子がいいことも好材料。最初のきっかけをつかめば、そこから連勝街道に乗ってもおかしくない。
この日集まった観客は浦安のホームゲーム最多の1601人。みなさんの中にフットサル観戦初心者がどれだけいたかはわからない。だが、1発でフットサルのとりこになるような、そんな魅力を秘めたゲームだったと思うのだが、いかがだろうか。
シト・リベラ監督(浦安)
いい形で試合に入ることができた。プレスからシュートまで持っていけていて、その結果が3-0というスコアに反映されたと思います。そこから町田ももう一度試合に入ってきて、3-2になった。得点を決めて勢いに乗っている彼らを止めるのは難しかった。だが、後半は私たちも持ち直してた。パワープレーはいつもやっていることの々。我々のできることを、しっかりとやれた試合だと思う。
バイアーノ監督(町田)
トップを走っている浦安ということで、難しい試合になると思っていました。ゲームスタートから最初の10分は、浦安のディフェンスにウチがハマってしまい、3点をポンポンととられたて、それが痛かった。相手より点が取るチャンスがあったが決めらなかったウチに対して、逆に浦安は少ないチャンスを確実にきめたのはすごいところです。結果的に負けたのは悔しいが、やってきたことは間違っていない。次につながっていくと思う。