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○第10回AFCフットサル選手権(バンコク/タイ)2008/05/11〜05/18

<レポート・写真> 北 健一郎

<決勝>5月18日
2 前半 0
2 後半 0
イラン 4 合計 0 タイ


イラン代表


タイ代表

真っ向勝負で見えたもの

1回、2回、3回……。イランの背番号10の体が宙に舞う。試合後のピッチではこの試合を最後に引退するIヘイダリアンの胴上げが行われていた。イランが前回大会に続いて、開催国との決勝戦を制して連覇を達成した。

日本と中国の3位決定戦という“前座試合”から1時間30分。ニブミット・スタジアムは決勝開始前になると立ち見客も出るほどの超満員になった。チケットは売り切れて、会場前のパブリックビューイングにも大勢の人がつめかけたのだという。

王者・イランと開催国・タイによる決勝戦。両チームのスタメンはタイがGKOチュエンタ、Dイッサラスウィパコーン、CジャンタEサイソン、Fマンジャレン、CイランがGKKナザリ、Bタヘリ、Cケシャバルズ、Iヘイダリアン、Hシャムサイー。

イランボール。IヘイダリアンがHシャムサイーに転がしてキックオフ。

自陣でボールを持ったイランにタイがプレスをかけていく。オールコートプレスだ。タイとイランの実力差からすれば、これはほとんど“奇策”といっていい。アジアで絶対的な力を誇るイラン戦では、どこの国も自陣に引いた形でゲームに入る。しかし、開催国のタイは最初から積極的なプレーで先制点を取りに行った。

1分、イランのシュートをタイのGKOチュエンタがキャッチしてフィード。タイのFマンジャレンのパスがゴール前のEサイソンに通りかけるが、イラン選手が間一髪でクリアしてタイのCK。

4分、Oチュエンタのグラウンダーのスローを受けた左サイドのEサイソンが、敵の間を通してゴール前のFマンジャレンにパスを出すが追いつけず。「あぁ……」というため息が漏れる。

どちらのシーンも、GKOチュエンタのフィードが起点になっている。彼がタイの攻撃のキーマンだった。プレスをかけに行くことで空く自陣のスペースをカバーし、自分たちのボールに切り替わった瞬間に、素早いフィードで攻撃の第1歩になる。ちょんまげヘアー、タイ国旗をほっぺたにペインティングした目立ちたがり屋が、前半から目立ちまくる。

イランは後方での短いパス交換でタイを引きつけて、裏のスペースを狙っていくが、Oチュエンタの好セーブもあってゴールが決まらない。タイもカウンターだけでなく、ボールをつないでシュートまで持っていくが“触れば1点”のボールに合わせられない。

タイの観客はリアクションが良い。タイのチャンスやゴールのシーンでは会場中が1つになって盛り上がる。逆に敵のゴールが決まると水を打ったような静けさが広がる。

8分、ニブミット・スタジアムが一瞬静かになった。正確にいえばイランのチームと応援団だけの声が響いた。右のCKからJラティフィが遠目からシュート。Oチュエンタの手の先をすり抜けてボールがゴールネットに絡まる。イラン、先制。

日本とタイの「対イラン」の戦い方で決定的な違いは、Hシャムサイーに特定のマークをつけないことだ。彼が引いてボールをもらったときなんかは、割とルーズになる。日本だとA鈴村拓也やC小宮山友祐が常に目を光らせているが、タイの場合は4人の中の1人として見ている様子。これがどう出るか……。

14分、イランはHシャムサイーがミドルシュート、GKが弾いたところをフリーでRハッサンザデフが打つが、これもOチュエンタが弾き出す! スーパーセーブ2連発で士気が上がるタイ。

だが16分、タイの上昇ムードをイランのスーパーエースが打ち消す。左サイドの1対1でボールを引きずるようにしてグンとスピードアップ、かわした敵が足を出してくる前に左足でファーサイドを狙ってシュート。ボールはOチュエンタが伸ばした足の先を通り抜け、ファーポスト内側に当たりゴールイン。

前半で2−0。ゲームプランが崩れたタイがこの点差を逆転するのは難しい。イランの次の1点で勝負は決まるだろう。逆にタイに1点が入ればまだわからなくなるが。


勝負の次の1点は意外に早く訪れる。

後半3分、右サイドでHシャムサイーが右のIヘイダリアンへ出して前へ抜ける。Iヘイダリアンが左イン→右アウトでトリッキーな縦パス。これをほとんど角度のないところからHシャムサイーがシュート……と見せかけて得意のキックフェイントで中へ切り返し左足シュート。Hシャムサイーの2点目でイランが3点差とする。日本の選手だったら絶対に引っかかっていなかっただろう。

ここからタイはIエアカポンでパワープレー。だが37分、唯一のレフティーでチーム一のシューターであるCジャンタがJラティフィへのファウルで一発退場してしまう。自陣にはタイ選手が残っていて、決定機阻止ではなかっただけにやや厳しい判定。ちなみにカードを出したのは日本人レフェリーだった。

4人となったタイ。3点差があるイランはリスクをかけて点を取りには行かず、2分間が終了して5人に戻る。

5人になったタイはGKをDイッサラスウィパコーンにしてパワープレー。だが、これがうまくいかないと見るや、またパワープレーGKをIエアカポンにチェンジとドタバタ。Iエアカポンは遠目からのシュートがないので怖さがない。Cジャンタの不在が痛い。

残り6分からイランはIヘイダリアンをピッチに送り込む。パワープレーのディフェンスでは普通は走れる選手が使われるが……。するとIヘイダリアンはボールを持つたびにこれでもかというほどテクニックを見せつけるではないか。タイもボールを取ることができず、イランボールの時間帯が長くなる。

そして37分、イランのGKKナザリのキックをHシャムサイーが右インで反転トラップ。飛び込んできたOチュエンタの鼻先で横パス。これをIヘイダリアンが押し込み、4点目。

タイ人の観客が席を立って帰り始める。Iヘイダリアンのダブルタッチパスに会場中が拍手が起こる場面も。終わってみれば4−0、イランがタイを圧倒的な強さで下して連覇を達成した。

この結果はイランとタイが真っ向勝負をしたら、現時点でこれぐらいの差がある、ということだろう。それでも、イランに対して逃げずに最後まで戦ったタイの勇気ある姿勢は評価できる。

試合終了後に胴上げされたIヘイダリアンは、ワールドカップを待たず、この試合を最後に引退するんだという。“魔法使い”といわれたようなテクニックを初めて見たときの衝撃は今でも忘れることはできない。個人的にはサインをもらったときの紳士的な対応にとても感激したことも覚えている。


アジアフットサルに名を残す偉大なる名手だった。と同時に素晴らしい人格者だった。06年大会で当時の監督との確執でメンバーから外れたとき、イランは唯一優勝を逃したことからも、彼の偉大さがわかるだろう。アジア王者・イランのキャプテンマークはHシャムサイーに引き継がれる。1つの時代の終わりを感じたフィナーレだった。





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